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ウィズコロナ時代の
住まいと暮らし
~心豊かに過ごすために~

2021年5月7日
 新型コロナウイルス感染症の影響で“新しい生活様式”という言葉が生まれ、わたしたちの暮らしも変化を余儀なくされています。そんな中での家づくりで押さえておきたいポイントは、どんなことなのでしょうか? 専門家のアドバイスをハッピーな家づくりに生かしてみませんか。

建築家に聞く、ウィズコロナを豊かに生きる家とは

 夫と共に東京都北区に建築設計事務所を構える村上有紀さん。住宅設計を手掛ける建築士であると同時に、「一般社団法人辰巳渚の家事塾」の理事でもあり、家事動線を極めた収納や、それぞれの暮らしを丁寧にヒアリングする空間づくりに定評があります。
 村上さんに、ウィズコロナ時代の家づくりについて、話を聞きました。

家族がいて、暮らしがあり、
家がある

―村上さんが家づくりで大切にされてきたことを教えてください。―
家というハードがある前に、家族がいて、暮らしというソフトがあることですね。この順番を間違えないようにしたいと考えてきました。使い勝手だけでなく、住むご家族にとっての居心地の良さまできめ細かく設計して、質のいい空間をつくりたいと考えています。

―「ハードの前のソフトが大切」という考え方には、辰巳渚の家事塾との出会いも影響していますか?―
あるとき同時期に全く異なる要望を受けたことがありました。「壁面収納が使いづらかったので、新しい家ではウオークインクローゼットを造ってほしい」という50代の方と、「マンションに一坪のウオークインクローゼットがあったが、なかなか片付かないので、今度は壁面収納にしたい」という30代の方でした。設計士は、ご要望通りに設計図面を引くことはできますが、それで問題が解決するかどうかは疑問だな、と思ったのです。
私自身も片付けが得意な方ではなかったので、片付け術を知るべく、『捨てる技術』がベストセラ―になった辰巳渚さんの講座に参加しました。ところがそれは、いわゆるハウツーを教える片付け講座ではありませんでした。家族の暮らし方によって、ハウツーもハードも異なることに気付かされ、さらに学びを深めて1級家事セラピスト資格を取得したのです。この知識を現在の家づくりにも生かしています。家に暮らしを合わせると、どうしても頑張る生活になってしまう。そうではなく、住む人の暮らしに家を合わせる設計をしています。

―新型コロナウイルス感染症の拡大で、設計に変化がありますか?―
パンデミックが発生したことで、3密を避けるとか、テレワークやオンライン授業が行われるなど、私たちの衛生への関心やライフスタイルは大きく変わりました。これに応じて、施主の要望も私たちの提案も変化してきています。

外からウィルスを持ち込まない
工夫

―衛生面での変化や工夫を教えてください。―
今ではマスクや手洗いはすっかり浸透し、洗面所の要望が高くなっています。そこで、以前はひどい花粉症や、泥汚れを家に持ち込みたくない人向けに勧めていた洗面所の設置を、標準プランで提案するようになりました。設置場所は、玄関外のアプローチだったり、玄関のたたきだったり、靴を脱いですぐの場所だったり。気に入った焼き物の洗面ボウルを使うなど、インテリアの一部として取り入れる方もおられます。

―衣類やかばんなどの持ち物に付いたウイルスが心配な場合もありますね。―
カバンやコートに付いたウイルス対策は、玄関収納で解決してはどうでしょう。近年、家族も客もリビングでくつろぐ欧米式を取り入れ、リビングが広くなってきました。昔の日本の家は広さが格を示すものでもありましたが、リビングが広くなるにつれて玄関スペースは減少。しかし相変わらず靴を脱ぐなど、暮らし方全てが欧米式になったわけではないため、あまりに玄関が狭小では、生活しづらいことも分かってきたのです。
 そこで、ベビーカーなど外で使う道具を玄関土間に収納したり、表と裏が明確に分かれていた昔の家の発想を生かし、バックヤード動線をつくる工夫が生まれました。ウイルスを生活空間に入れない手段としても使えます。

住み心地を大きく左右する
洗濯動線

―ウィルス対策で、以前より洗濯物の量が増えがちです。洗濯の負担を軽くする間取りがありますか?―
家事動線を考えるとき、洗濯はそもそもヘビーな課題です。まずは、洗濯機を衣服を脱ぐ場所に置くのか、干す場所に置くのかで、間取りは大きく変わります。風呂の残り湯を使うなら風呂場の横に置きたいし、料理をしながら洗濯もするのなら、キッチンの中に洗濯機を置く方法もあります。その人の暮らし方によって、さまざまなバリエーションが考えられるのです。
 最近は室内干しスペースを設ける要望が100%。以前は、使うかどうか分からないけれども設けていたバルコニーを削り、室内干しスペースを確保する人が多いですね。村上建築設計室では、吹き抜けの2階部分に干し場を造るプランをよく使います。吹き抜けには、日当たりがない日でも熱気が上がるため、乾燥しやすく、お勧めです。

ワーク&スタディスペースの
新しい考え方

―大人の在宅勤務や子どものオンライン学習が増えました。―
 これまで私は、子どもが個室を持つのは、本当に必要となったときでいいというスタンスでした。子ども部屋は、必要となったときに壁を入れることができる間取りです。一方、リビング内に、「家族の図書室」的な机や書棚を設けたりもしています。ただ、ウィズコロナで在宅ワークをしていると、ラフな仕事はともかく、リモート会議などは難しい。「トイレの中や玄関先でzoomしている」「家族が近くに居て、オンラインの勉強に集中できない」という声も聞くようになりました。家族1人に一つまでは必要ないでしょうが、声や生活音をシャットアウトし、1人でこもれる場所が必要だと考えるようになりました。
 一方、仕事を邪魔する子どもはすぐに大きくなり、いずれ巣立って部屋は余ることになります。壁を造るというよりは、3㎝ほどのランバー材を立ててビスで留めるなど、簡易的な間仕切りをするという手だてもあるのではないでしょうか。
現在進行中の物件では、ウオークインクローゼット用のスペースの半分を、当面オンラインブースにしてはどうかと検討中です。

▲1つの部屋を間仕切って使うには、壁を造る・造り付け家具で 仕切る・可動式家具で仕切る・簡易のついたてやカーテン等で 仕切るという方法があります。コストも記述順で低くなります

それぞれの家族の暮らし方を
設計に落とし込むには

―村上さんは丁寧なヒアリングをして設計するそうですね。―
間取りは、住む人の暮らしを形にしたものです。どんな暮らしをしたいのか、何を実現したいのかをまずお聞きします。日頃は、そこまで意識しておられない場合は、どんなことが好きなのか? など具体的なことから聞いていきます。収納プランを考えるためには、現在どんなことに困っているのか、何がどこに置きっ放しになってしまうのかといったことを丁寧に聞き取り、置きっ放しになっている場所に置き場を設けるなどの工夫をします。
 最近はインターネットでビジュアルをたくさん取ることができますね。これはイメージを固めるためにはいい方法ですが、設計士の間では「あれ、大変だね」という意見もあります。あまりにも具体的なイメージを持ちすぎると固定観念となり、うまくいかない場合もあるからです。
設計士は施主より引き出しが多いものなので、施主の抽象的な思いを実現するべく提案します。ただ、自分の知識だけで対応するのではなく、それぞれの施主との対話の中でアイディアを発見できるよう、自分をリセットして当たるように努力しています。

▲村上さんは、施主さんそれぞれの住まいの豊かさを見つけるために、マインドマップなどを利用しています

―コロナの前と後とでは、家づくりはどう変わるでしょう。―
 先日、設計士仲間とオンラインでコロナ後の暮らしについて話し合いをしました。その中の1人が、コロナの前でも後でも、同じようにベランダにプールを置いて子どもを遊ばせていたり、バルコニーでバーベキューをしていたりしていて、暮らしぶりが変わっていないということをプレゼンテーションしていました。
新しい家を造るタイミングは、暮らしというソフトと、家というハードを整える絶好のタイミングです。コロナは自分の価値観を見直すきっかけになったという人も多いかもしれませんね。最近は、雑誌で住宅を扱うとき、「家事ラク」「収納」といった効率性を求めるキーワードを使うと売れ行きが伸びる風潮がありましたが、これも変わっていくのかもしれません。家づくりを機に自分の豊かな暮らしを改めて考えてみて、「こんな自分もいたのだ」という発見ができたら、自分にとっての豊かな住まいができるのではないかな、と思います。

お話しを伺ったのは...

村上 有紀(むらかみ ゆき)さん
2004年東京都北区堀船に、村上建築設計室を夫・村上治彦さんと共同設立。東京のほか、栃木・福島・大分など各地の住宅等の設計を手掛ける。資格は、2級建築士・辰巳渚の家事塾認定1級家事セラピスト・福祉住環境コーディネーター1級など。
村上建築設計室
http://www.murakami-design.com/