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部屋って何だろう? 〜これからの家づくりに必要なこと〜

2021年12月13日

世界自然遺産の島として注目を集める奄美大島。奄美市にある酒井建築事務所の酒井一徳さんに、これからの家づくりに必要なことを聞いてみました。

酒井建築事務所は、奄美市名瀬港町にあります。共に一級建築士で代表取締役の父・酒井萃(あつむ)さんと、息子で取締役の一徳(かずのり)さんを中心に、建築、インテリアなどに関する企画・設計・監理をはじめ、企業やまちづくりのデザインコンサルティングなどを手掛けています。

一徳さんは広島大学工学部第四類(建設・環境系)を卒業後、フロリダ大学院で建築修士号を取得。アトリエ天工人(テクト)を経て2012年に酒井建築事務所に入所。2013年から5年間は、Shall we Design代表も兼務。地元の人々とともに、奄美群島の未来を真剣に考え、協働できる仕組みをデザインしていくクリエーター集団のリーダーとしても活動してきました。

そんな酒井さんは、2020年に鹿児島市吉野町の磯海水浴場近くにリクルーティングのための事務所を開設。建築学科の学生に模型作りなどの実践の場を提供しています。奄美大島の事務所でも研修を積んでもらうなど、建築士の育成にも力を入れています。

 

部屋って何だろう?

こう疑問を呈する酒井さんは、「僕が設計する住宅には、ここは○○部屋という役割名を付けないことが多いです。ここがキッチンですというのはあっても、リビングとダイニングの区別はないです。キッチンのそばにテーブルを置けばダイニングになるし、ソファを置けばそこがリビングになる、といった調子」。つまり、キッチン、洗面・バス、トイレといった水回り以外は、固定した場所をつくらないという考えです。

10年、20年先を考えてみよう

「いまは子どもが○人いるので、子ども部屋を○つ…、と発想する方も多いでしょう。しかし、子どもが家で過ごすのは18歳ぐらいまで。親元を離れていった後、使われない子ども部屋が残るのはもったいないですよね。今のことに目を奪われがちですが、家づくりは10年、20年先を見据えて検討することが大事です」

リビングやダイニングにテレビが必要?

家族で過ごせる時間が、とても貴重だと感じている酒井さん。自邸にはテレビを置いていないそう。「例えば、テレビを付けながら食事をすると、どうしても映像に気を取られますよね。リビングでくつろいでいるとき、テレビの音に家族の会話が邪魔されてしまうことも。どうしてもテレビが必要なら、リビングやダイニングから離れた場所に置くのがいいと思います。中庭を挟んだ部屋に置くなどし、見たい人がそこに移動すればいいので」

暮らし方と温熱環境

今、実施設計中の案件に、入母屋屋根が目を引くギャラリー兼住宅があります。当初は、キャンドル作家の奥さんの工房兼住宅の予定だったのですが、「どうせならキャンドルを使っている様子も見せながら家全体をギャラリーにしていきましょう」ということで設計が始まりました。

四方を高い建物にぐるりと囲まれた敷地です。そこで、外部からの視線を遮るために敷地を掘り下げて、四角い箱の上に大きな屋根を架けることによってプライバシーを確保できるようにしました。

内部にはキッチン、浴室、トイレ、クローゼット、洗面所などがギュッと詰まった小さな箱があり、その周囲を回遊できるような形でギャラリー兼住居スペースの大空間が構成されています。採光は、壁の大きな窓と屋根のハイサイド窓から取り込み、湿気や熱などは、機械に頼らず屋根上部から逃します。日中は照明要らず、クーラーも使わず快適に過ごせる温熱環境を整えます。

夕方からは、キャンドルの灯りで生活。その様子を見てもらうことで、キャンドル生活の豊かさを知ってもらえるギャラリーにする計画です。

素材とコスト

このギャラリー兼住宅では、基礎をそのままコンクリート素材の土間として仕上げます。また、別の住宅では、外壁に焼き杉を採用しています。「生の杉材よりは少し高いけれど、塗装が不要でシロアリにも強いからです。時間がたっても焼き杉の内部が腐れる手前で塗装を施せば、さらに素材の寿命を延ばせます。最近は、屋久島の地杉もよく使っています。油分が多いので腐れに強く、2、3年で茶色から灰色に変化しますが、それがまた美しいです。経年変化を楽しめる人なら、素材選びでコストを抑えるのもいいのではないでしょうか」

調光・調色について

桜島を望む磯の事務所には、「鹿児島ではおそらく初めての施工例ではないかと思います」と酒井さんが話す、スマートフォンで操作する新しい照明が設置してあります。「照明ボックスは自作ですが、中の器具は遠藤照明の調光・調色ができるライトです。生活シーンに合わせて色温度を変えることで、人はリラックスできたり、逆に程よい緊張感を保てたりします。色温度のコントロールをスマホで簡単に操作できるところが画期的です」。  太陽のまぶしい明るさが12000ケルビン。一般的なオフィスの蛍光灯が5000ケルビンで、長時間作業すると目の疲れを感じがち。「デスクワークには3500ケルビンぐらいがいいですよね。暖かい色は2700ケルビン。夕焼けの色は1200ケルビン。目を休めるためにもちょうどいい明るさです。睡眠前は、だいたい2000ケルビン程度の明かりで深い眠りにつきやすい環境をつくれます」。遠藤照明はこのレベルまで調光・調色できるところが優れている、と酒井さん。「調光器だけでも1万円ぐらいかかるけど、このスマホでの調光なら、施工面でもコスト面でも助かるし、本当に便利ですよね」
エアコンよりも自然の風が好きだという酒井さん。カーテンを掛けない窓を開けて過ごす事務所には、自作の家具の数々が。「3m×1.2mのこのテーブルは四隅の脚4本ですが、200kg載せても、たわみは1cmぐらいです。あっちの机は、建築模型製作用。あのソファは桜島を見るためだけにデザインしました」と、どの家具も気持ちよさそうに風を浴びて仲良く収まっていました。

奄美事務所
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